ふくしさいたま

3月の特集

  障害があっても要介護状態になっても、できる限り地域の中でその人らしい暮らしができる、そんな地域を目指し、公的福祉サービスではない住民同士のつながりや支え合いを基本とした、新たな支え合いが生まれています。
 今月号は、県内で活発に活動している2事例と本会の取り組みを中心に、地域における新たな支え合いについて紹介します。

1.地域における新たな支え合い(共助)

 介護保険法の制定をはじめとして、この10年間の福祉制度の改編は、個人の尊厳を尊重する視点を大切にし、障害があっても、要介護状態になっても、できる限り地域の中でその人らしい暮らしができるような基盤整備をしていくことを基本の考え方として、地域での自立支援、生活の確保、施設や病院から地域への移行などが進められています。
 一方、受け皿になる地域では、公的福祉サービスだけでは対応できない、多様な生活課題が顕在化しています。高齢で一人暮らしであるため、電球の交換やゴミ出しを頼める人がいない、買物に行けても買った物を持って歩けないといった物理的な問題や、一人暮らしが寂しいといった心の問題、孤立死の問題などがその例です。
 これまではこういった生活課題は、家族や地域の住民同士の助け合いによって解決されてきました。しかし現在は、周囲との煩わしい関係を拒みマンションに住む世帯、自治会への加入を拒む世帯など、個人主義的傾向も強まる中、ご近所の人間関係が形成されず、住民同士の関係性が失われつつあります。大都市においては、オートロックのマンションに民生委員・児童委員が入れない事態が発生するなど、多様な価値観の中で、既存の支え合いのシステムが一部機能しにくくなっています。
 こうした中、地域における新たな支え合い(共助)の領域を拡大、強化することが、地域住民を支える重要な取り組みとしてクローズアップされています。

2.住民主体の取り組みとその効果

 地域住民による支え合いは、ボランティア、NPO、住民活動などにより取り組まれていますが、住民が主体的に事業を進めるからこそ、公的機関ではできない柔軟な展開が可能となります。住民が自分たちの問題として地域に目を向け、主体的に問題解決に取り組む2つの団体を紹介します。

(1)ボランティアが立ち上げた地域の居場所
〜まちのえき〜「かめや」(戸田市)

 平成20年8月にオープンした『〜まちのえき〜「かめや」』(以下、「かめや」)は、商店街の店舗を利用した住民の居場所づくりを展開しています。対象は地域住民で、高齢者、子ども、障害者など誰もが利用できる自由な雰囲気が魅力的な空間です。
 地域で生きる、バリアフリー、手をつなごうという目標を掲げ、市民レベルで「生きがいを持つ・よく働く・地域交流が盛ん=元気な街と人をつくる手助けをすること」を目指しています。

1.発足の経緯

 子育て支援や食を通じた人とのつながりに関する取り組みを進めているT O D A 子育てネットワーク(Naka−Yoshi)、いもっ子エコクラブ(阿佐美や)、学生ボランティアTODAジュニアサポートネットワークの3団体が基本志向に共感して1つの団体「かめや」を設立、その活動の1つとして設置した居場所が「かめや」です。
 3団体が協力し合うことで、各団体が抱えていた ア.拠点の確保 イ.企画のマンネリ化 ウ.協力者の広がりの限界などの問題を克服して活動の幅を広げています。拠点整備に当たっては、戸田市社協の「やさしいまちづくり応援助成金」を利用しています。

2.「かめや」ってどんなところ?

 「かめや」が目指しているのは人々の居場所づくりです。豆腐ドーナツなどを販売し、ちょっとした甘い物を食べながらおしゃべりしたり、子どもたちと高齢者が手作りコマや折り紙を一緒にしたり、楽しむ様子が見受けられます。
 「今日はお母さんが家にいないの」と話す子どもに、「そうなの。寒いからここで休んでいけば」と声を掛ける大人たち。柔らかく受け止めて見守る雰囲気は、子どもや高齢者が安心して立ち寄れる居心地のよいコミュニティカフェとなっています。
 また、「かめや」のあるさつき通り商店街の利用者には、「かめや」でお茶を1杯サービスしたり、商店街のイベントでは地域住民、町会、商店街のパイプ役として協力するなど、商店街の利用促進・活性化にも一役買っています。
 社協などの助成金を上手に活用して拠点整備する「かめや」は、コミュニティビジネスの視点から、委託販売などで得た収益で事業を継続展開できるよう試行錯誤しながらも、経営ノウハウの積み上げにも積極的です。

3.一人の住民として

 あるスタッフの方は、居場所づくりを考えた時のエピソードとして、「家で冷ごはんにお湯を掛けて食べ、なんとか生活している80歳男性の話が忘れられなかった。本当は専門家の助けが必要なのに、それを伝えることができず困っている高齢者がたくさんいる。何とかしなくては」と思ったといいます。
 また、これまでも子育て支援の取り組みを展開し、子育て中の親や子どもたちとのかかわりの中から、地域の関係性に疑問を抱いていた代表の島田さんも「お金はないけれど、地域に絶対に必要だと思った」と笑顔で話されました。人との交流から生み出されるお金ではない価値を伝え、地域と共に築いていく交流は、今、地域の財産となっています。

(2)自主防災委員会の発足と見守り活動への発展
鶴舞自治会・鶴舞自主防災委員会(坂戸市)

 鶴舞自治会では平成13年に自主防災委員会を発足し、人命尊重をキーワードに、緊急時要援護者支援システムを構築し、機能させています。集約された要援護者支援情報は民生委員・児童委員とご近所の支援者による日常的な見守り活動へと発展させ、地域全体で支え合いの取り組みが進められています。

1.地域の安心・安全は地域の自助と共助で!

 鶴舞自治会では、加入世帯の多くが70歳代高齢者となり住民の自治会離れが話題になる中、緊急時の高齢者への支援が地域の重要な課題となっていました。このままでは、高齢者を見捨てたまちになってしまうという危機感から、地域の安心・安全は地域の自助と共助で守ろうと、鶴舞自治会・鶴舞自主防災委員会は要援護者支援の取り組みを始めました。
 メンバーは、自治会会員の持ち回りや選出ではなく、防災活動に関心と熱意のある自治会会員個人が自主的に入会する体制を基本とし、幅広く機能する組織としました。

2.緊急時要援護者支援システムと見守り活動

 鶴舞自主防災委員会で構築された緊急時要援護者支援システムでは、独自の防災調査票により要援護希望世帯の把握後、鶴舞自主防災委員会のメンバーと民生委員・児童委員が世帯訪問し、要援護者世帯の確認(訪問時には個人情報の限定開示の承諾を得ます)をします。その後、要援護者支援情報カードを作成し、要援護者や支援世帯、自主防災委員地区担当者、民生委員・児童委員などに配布されることとなります。
 また、緊急時の活動を生きたものにするために、平時より、民生委員・児童委員と近隣支援協力世帯は要援護者への見守り活動を展開します。この自主防災委員と民生委員・児童委員ならびに支援協力世帯との緊密な関係が、安心のまちづくりへの大きな力となっています。
 自治会加入の大きな魅力づくりは、自治会加入のメリットが目に見える形となり、この取り組みは、地域住民の自治会への信頼回復にも効果を挙げ、年1回行われる防災調査票の回収率は90%を超えました。

3.地域活性化の原動力

鶴舞自治会顧問の三島さんは、この自主防災委員会の取り組みが地域活性化の原動力の一つとなっているといいます。そして地域の活動のポイントは、「住民同士は対等の権利と義務、また、いろいろなしがらみも共有している。しかし、一つのテーマに基づいて一緒に動くと大きな力を発揮できる。大切なのは、自治会が何をしようとしているのか見える形にすること。イメージを持てると、主体的に参加できるようになる。これが住んで良かったまちづくりの原動力」と話されました。

3.埼玉県社協のモデル事業

 住民が地域の課題解決に向け主体的に取り組んでいる事例を紹介しましたが、ここに専門職が関わることで、より効果的な共助の取り組みが実践できます。
 埼玉県社協では、高齢、障害、児童などの分野を超えた多職種連携と、地域における支え合いの取り組みを広めることを目的としたモデル事業を川口市で展開しています。この事業では、個別課題への支援方策を多職種で検討する生活支援会議を設置し、支援策の幅の広がりや地域との接点を見いだし、誰もが地域の中でその人らしく生活していけるような基盤整備に取り組んでいます。
 生活支援会議では、地域住民による支え合いの仕組みが存在することが確認されています。例えば、川口市社協が委嘱する地域福祉推進員が地域の中で孤立する高齢者や、児童虐待世帯などさまざまな世帯情報を保有し、実際に支援を展開しています。この支え合いの仕組みの中に専門職が加わることで、福祉課題の普遍化や支援の幅の広がりといった効果が生まれています。
 この事業では、地域で支援をする住民、問題を抱える人、福祉関係者などがつなぎ・つながり合う関係を丁寧に築き、福祉専門職の知識と技術、地域住民による支え合いの力を合わせることにより、一層の効果を生み出している一つのモデルとして考えることができます。

4.取り組みの一歩

 死亡後長期間発見されない孤立死、認知症高齢者の徘徊死、高齢者虐待の問題など、地域の支え合いへの取り組みが急務です。これらの問題は近隣住民や家族との関係性が希薄な場合には表面化しにくく、言い換えれば、地域の住民の関係ができている場合は、未然に防ぐことができる可能性があり、予防が可能な問題と考えることができます。
  こういった問題を背景に、自治会の組織的な取り組みや、活動団体による柔軟な取り組みが、地域における新たな支え合いとして生まれてきています。
  地域住民の支え合いとは、特別な組織やモデル事業で始めるような難しい取り組みなのでしょうか?決してそんなことはありません。
  例えば、夫を亡くした一人暮らしの76歳の女性が、毎日、牛乳1リットルと食パン1斤を買っていくことが続き「様子が変だな」と感じた顔なじみのスーパーの店員が、地域包括支援センターに相談を寄せたことにより、認知症発症が判明して緊急対処したという話があります。
  プライバシー保護が強調される中、見て見ぬふりをせず、勇気を持って地域包括支援センターに相談を寄せた店員の行動が、大切な情報源として福祉関係者へ届き、この女性の認知症を早期発見させました。この事例は、特定の団体に所属しない人でも、地域の支え合いの担い手になることができることを物語っています。
  誰もが孤立しがちな現代、相手のプライバシーを尊重しつつ、「見て見ぬふりをしない」「困ったときに助け合う」そんな当たり前のことが、今改めて問われてきています。
  一人一人が地域住民としての構成員であることを理解し、住民同士の見守りや、「困った」と言える緩やかな関係を大切にし、できることから地域とのかかわりを始めてみませんか。あなたのまちに支え合いはありますか。