団塊の世代(以下、団塊世代)が定年を迎え始める2007年以降は、労働力不足や社会保障費の増大などが懸念される一方で、先進的・多様的な消費者として、また地域活動への新たな担い手として期待が高まっています。
 団塊世代はこれからの人生をどのように過ごそうとしているのでしょうか。団塊世代を対象にした意識調査などを基に、われわれは、団塊世代の方々のエネルギーを受け止め、地域の力として活躍してもらえるステージをいかに準備していく必要 があるかを考えます。

    

団塊世代を取り巻く状況
 第1次ベビーブームである昭和22年から24年に生まれた世代は、人口構成の中で大きな割合を占め、埼玉県の人口約705万人のうち団塊世代は約39・1万人(県内の全人口の5・5%)となっています(表A)。また、この団塊世代人数は、全国でも東京、大阪、神奈川に続いて第4位と多くなっています。



 団塊世代がこれからの人生を考える上での関心は、どういったものに寄せられているでしょうか。
 読売新聞社の団塊世代に向けた調査によると、本人や配偶者が退職・引退した後の暮らしを「楽しみにしている」と答えた方が32%いる一方、「不安に感じている」は66%に上り、これからの生活への希望・期待感よりも健康上、経済的など、今後さまざまな面で押し寄せてくるであろう不安感の方を先に挙げる方のほうが多くなっています。
 このような中、高年齢者雇用安定法が改正され、定年後も働きたいと希望する人も多く、埼玉県でも、再就職支援や創業支援、技術・技能の継承支援、就農支援などを積極的に進めている状況があります。



 これからの生活への希望・期待に関しては、退職・引退を機にこれまで就労に費やされていた時間が自分自身の自由な時間となることで、団塊世代が退職後のライフデザインを真剣に描き始め、若いころ好きだった趣味に再挑戦したり、全く新しいチャレンジを考えるなどの意欲も見逃せません。

     

 また、旅行業者が趣味・嗜好(しこう)を考慮したさまざまな旅行プランを提案したり、シニアに優しいコンビニエンスストアを続々とオープンするなど、市場はさまざまな商品開発やサービスの提供を競い合うマーケットとしても団塊世代は注目を集めています。


「ボランティア活動をしたことはないけれど、
機会があれば参加したい」が6割超
 さて、団塊世代はボランティア・市民活動などについてどのように考えているのでしょうか?
 本会ボランティア・市民活動センターが実施した「勤労者のボランティア・市民活動に関する意識調査(平成18年9月)」によると、団塊世代のうち「ボランティア活動をしたことがない」(61・2%)割合が最も多く、「過去にしたことがある」(20・4%)、「現在も活動している」(17・1%)を大きく引き離しました。
 しかし、現在参加していないと答えた人たちへボランティア・市民活動の参加の意向を伺うと、「ぜひ参加したい」「機会があれば参加したい」と答えた人が合わせて64・5%に上り、関心の高さがうかがえました。
 それでは、どのような機会があればボランティア・市民活動に参加しやすいのでしょうか?
 調査結果によると、「学ぶ講座や研修会」を希望する人が最も多く(75・2%)、次いで「活動情報の提供」(35・0%)や「気軽に参加できる機会」(34・2%)と続きました(表B)





 このように、ボランティア・市民活動を始めるために必要な機会・支援を提供できれば団塊世代のエネルギーを地域で発揮させることにつながることが分かりました。


地域力の活性化に向けて団塊世代を地域へ
お迎えしましょう
 このような調査結果から、本会では、団塊の世代などに対して退職後のこれからの生き方、暮らし方に役立つヒントや気軽にボランティア・市民活動を始める機会を検討する事業(団塊の世代向けモデル体験プログラム事業)を実施しました。
 団塊世代が自分の住む地域で、自分のライフスタイルや嗜好に応じて、地域社会とのつながりを持ちながら活動することは、新たな社会的役割を得る一つの契機になります。
 そのためにも地域活動の実践者やボランティア・市民活動団体、企業などと社会福祉協議会が協力しながら、共に地域福祉を進めていく仕組みをつくることが今求められています。




新しい地域力の発掘  団塊の世代への期待
 団塊世代向けモデル体験プログラム事業検討委員会委員長
  立正大学 教授 稲葉 一洋 氏


        
 全国的に「2007年問題」が話題になって久しい。今年がちょうどその2007年にあたり、40万人近い団塊世代を擁する埼玉県でも、これから数年の間に、多く人々の職場からのリタイアが始まる。ここで与えられたテーマ「新しい地域力の発掘ー団塊の世代への期待」が熱い視線をもって語られるゆえんであるに違いない。
 これまでは主婦を筆頭に、青少年や高齢者といった属性の人々が、ボランティアや福祉活動の代表的な担い手として活躍してきたし、このことは埼玉県でも例外ではなかった。近年にわかに注目される団塊世代の力を、しっかりと引き出していくには、従来の担い手層への働き掛けとは、かなり異なる視点や、プログラム開発が必要と考えられている。ちなみに埼玉県社会福祉協議会でも、団塊世代への参加支援のための新事業を展開中である。
 一般的にいえば、団塊の世代に特化した参加支援策は、住民参加を推進する選択肢の一つであり、必須事項ではないともいえよう。それでも市町村単位で考えると、行政や社協、NPOや地域組織など、働き掛ける側の方針や地域差もあるにせよ、その大半で団塊世代に対する参加支援は、プライオリティの高い取組になるように思う。
 ただし、この場合にも、団塊世代の職場からのリタイアが、地域の福祉力を高める担い手に直ちに転化していく可能性は低い。そこに団塊世代の参加支援の方策や、プログラムが注目を集める理由があるといってよく、そこでの確認すべきポイントを、3つほど挙げてみたい。
 第1に、団塊世代の力を掘り起こして、地域や福祉の力につなげていくには、当然この世代のニーズをしっかりとらえ、かれらを引き込む仕掛けや働き掛けが必要になる。
 第2に、これまでも各市町村社協においては、ボランティア活動や地区活動を推進・支援してきたが、住民参加の質量という点からいえば、地域的な格差がかなり見られたといってよい。団塊の世代の力を発掘していく際にも、この地域差が出ることは間違いない。
 第3に、参加を支援する主体が、何よりも地域の実情や資源に即して、それを戦略的に位置付け、実施の方策を考えて取り組むことが大切になる。ここでも仕掛ける側の的確で周到な準備と、働き掛ける職員やスタッフの意欲と力量が欠かせない点になる。
 このように団塊世代の参加を期待する側には、支援のための十分な備えが求められるが、期待を向けられる団塊の世代の側にとっても、この参加には大きな魅力と価値があるといってよい。それは職場中心の生活から、地域社会に軟着陸していくのに欠かせない、地域や他者とのつながりをつくる方途になる。
 さらにいえば団塊世代が経験しつつある高齢期への移行は、親としての役割だけでなく、職業的な役割をも失う、役割喪失のプロセスを意味している。それゆえに地域デビューによって、新たな役割を取得できるならば、高齢期の役割喪失を補完して、社会とのつながりを獲得する絶好の機会にもなるのである。