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県社協のご紹介

巻頭インタビュー(2024年2月)

発達障害の「特性」を理解することで、 誰もが生きやすい社会へ               ~発達障害の人が見ている世界を伝えたい~

 発達障害(※)の方と周囲の方々では物事の受け止め方や考え方などが異なる点に着目し、発達障害の方の行動理由を分かりやすく紹介する書籍を出版された岩瀬利郎さん。精神科医として多くの患者と接し、悩みや戸惑いに向き合う中で感じたことや、障害への理解について伺いました。

p02プロフィール用

精神科医・博士(医学)
岩瀬 利郎(いわせ としお)さん


 横浜市立大学病院、東邦大学大森病院、国立国際医療センターにて内科・心療内科・精神科の研修を経験したのち、母校の浜松医科大学大学院の病理学教室で病理学・分子生物学の研究に5年間携わる。臨床に戻ってからは埼玉医科大学精神医学教室に在籍し、米国ジョンズ・ホプキンズ大学医学部短期留学、埼玉石心会病院精神科部長、武蔵の森病院院長などを歴任。現在は東京国際大学医療健康学部准教授/日本医療科学大学兼任教授。
 研究・教育活動以外にも、メディアに多数出演しているほか、著書「発達障害の人が見ている世界(2022アスコム)」「認知症になる48の悪い習慣-ぼけずに楽しく長生きする方法-(2023ワニブックス)」などを発行している。

p03_発達障害の人が(表紙)

感じ方の違いから具体的な対応が分かりやすく紹介されています。
=アスコム提供

 

--発達障害の分野に関わるようになったきっかけをお聞かせください。


 発達障害に関わるきっかけは、飯能市の就学支援委員会の委員になったことでした。この委員会は、医師や心理士、教育関係者、行政の職員で構成され、障害のある子どもの社会参加や自立を目指すための望ましい就学について、専門的な見地から検討し、保護者に助言を行います。
 

 この時、教育現場の方が医療現場に比べて、発達障害に関して理解が進んでいる部分があると知り、驚かされました。当時、発達障害は子どもの分野とされていて、一般の精神科医の私には発達障害の専門的な知識がありませんでした。そのため、医療に携わる者として、大人も子どもも含めた発達障害についてもっと勉強していく必要があると強く感じました。

 

--著書『発達障害の人が見ている世界』を通じて、伝えたいことはどんなことですか。

 
 発達障害とは先天的な「脳機能の特性」です。発達障害の方の多くは、状況を読んだり、人の気持ちを推測したりする脳の働きが、定型発達の方より弱い特徴があります。例えば「急ぎでやってほしいと何度もお願いしたのに、全然やってくれない」「指示しても集団行動ができず、一人だけいつも違うことをしている」など、周囲の方とは違う言動をしてしまうのです。
 

 私はこれまでの経験から、こうした言動は、脳の特性により物の受け止め方や感じ方、すなわち「見えている世界」が違うからなのだと考えました。発達障害の方も周囲の方も互いの世界の見え方が違うために、言動を理解できず苦労やストレスを感じてしまうのです。
 

 この本は、発達障害の人が見ている世界を知ることで、本人と周囲の方々がより良いコミュニケーションを行い、日常生活の困りごとを解決できるよう、さまざまな事例と具体的な対応を分かりやすく表現しています。
 

 もちろん、本にある全ての方法が正解ではありませんが、事例を通して、お互いの世界の見え方を知るきっかけの一つになればと思います。

 

--発達障害を理解する上でどのようなことに気を付けたらよいですか。


 注意してほしいのは、「特性」を持つ全ての方が、発達障害とは限らないということです。
 

 いわゆるスクリーニング検査や知能検査などで発達障害を診断できると思っている方は非常に多く、中には、自身に発達障害があると思い込み、発達障害と診断されなかったことを納得できない方もいます。
 

 しかし、実際には発達障害を診断するための検査は明確にはありません。脳機能の特性には個人差があり、一人一人症状が異なるため、問診で過去の様子を含めて確認し、診断基準に照らし合わせながら総合的に検討して、判断しています。
 

 つまり、たとえ発達障害と診断されなかったとしても、似た特性を持つ方は多くいますし、診断結果や症状だけを基に、決められた対応をすればよいわけではないということです。
 

 大切なことは、診断結果の側面だけに囚われず、個人の特性を理解し、それに応じた対応を考えていくことです。

 

--具体的にはどのように理解し、対応するべきですか。


 例えば、発達障害について相談に来る大人の多くは、何らかの不適応を自分で感じて、長年生きづらさを抱えています。それは、子どもの頃は発達障害という言葉が広まっておらず、単に忘れ物が多い子どもとか、人と関わるのが苦手な子どもといった捉え方をされていたからです。
 

 そのため、まずはその方の特性を理解してそこに合った仕事を探したり、過ごしやすい居場所を見つけたりするなど、できる範囲で対応するように心掛けるとよいと思います。

 

 また、子どもの発達障害の場合、親からの相談が多く、育て方に悩む方も少なくありません。例えば片付けが苦手な子どもへの対応として、「何でもBOXを作るからそこに入れてね」と、片付けの基準を緩めて、「できること」を増やしていくことを目標にするなど、アドバイスするのも大切です。
 

 ただ、発達障害の方に無理に合わせようとする必要はないと個人的に感じています。できる範囲でお互いの考え方、感じ方を理解し、対応を考えていくことが大切なのです。

 

--最後に、読者へのメッセージをお願いします。
 

 医療の立場で、発達障害の方や似た特性がある方にできることは、医療機関を受診してもらうことで適切な治療を行い、症状を緩和し、生きづらさの解消に向けて支援していくことです。
 

 一方、医療の力だけでは、その方の全ての生活課題を解決することはできません。行政や福祉の相談支援機関などが関わり、幅広い支援と両立していくことで、より良い生活へとつなげることができます。医療だけ、福祉だけでなく、お互いが連携して、「特性」のある方への支援に取り組んでいけたらと思います。

 


※発達障害とは
①自閉スペクトラム症(ASD)「コミュニケーション障害」「同一性の保持」「感覚過敏」、②注意欠如・多動症(ADHD)「不注意」「多動性・衝動性」、③限局性学習症(LD)「読み・書き・計算などが困難」の3種類に分けられる。多くの場合、複数の特性が併存している。

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