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巻頭インタビュー(2023年8月)

望まない孤独を根絶する ~誰かを頼れる社会に~

 一時期3万人を超えた年間自殺者数は、近年は2万人台まで低下しましたが、若年層の自殺者数だけは減少せず、昨年の小中高生の自殺者数は514人で過去最多となりました。このような中、頼りたくてもその相手がいない「望まない孤独」で苦しんだ自身の原体験を踏まえて、誰もが確実にアクセスできるチャット(※1)相談を開始した大空幸星さん。現在は一日約1、000件の相談に対応しています。今回はその活動への思いについて伺いました。

本人画像

 

NPO法人あなたのいばしょ 理事長
大空 幸星(おおぞら こうき)さん


 1998年生まれ、愛媛県松山市出身。「信頼できる人に確実にアクセスできる社会の実現」と「望まない孤独の根絶」を目的にNPO法人あなたのいばしょを設立。孤独対策、自殺対策をテーマに活動しており、24時間365日、年齢や性別を問わず、無料・匿名で利用できるチャット相談窓口を運営。内閣官房孤独・孤立の実態把握に関する研究会構成員、内閣官房孤独・孤立対策担当室HP企画委員会委員、内閣官房こどもの居場所づくりに関する検討委員会委員など。
 

QR

NPO法人あなたのいばしょ https://talkme.jp/

活動写真

 

--チャット相談を始められたきっかけをお聞かせください。


 私自身、子どもの頃に問題を抱え悩んでいた原体験があります。孤独で苦しみ、死にたいと思うことが何度もありました。そんな絶望の中、親身になってくれた高校の先生に出会い、救われました。こういった出会いは、奇跡や偶然ではいけない。頼れる人に確実にアクセスできる仕組みが社会に必要だと考えるようになりました。
 

 既存の自殺予防の相談窓口は、対面や電話が中心です。しかし、若年層は日常生活の中でほぼ電話を使っていません。使用するのはSNSです。日本は、自殺者の総数が減少する中、若年層の自殺だけが増加している、いわば異常事態です。この異常事態は、使いやすい支援体制やツールを大人側が提示できなかったことが原因だと考えています。若年層の生活習慣や文化に合った相談手法を提示しなければいけない、ただその一点への思いで2020年3月、大学在学中に友人とチャット相談を開設し、同年12月にNPO法人を設立しました。チャット相談は24時間365日、年齢や性別を問わず誰でも無料・匿名で利用できる相談窓口です。
 

 相談が入ると、まずはチャットボット(※2)でリスクの程度を自動的に分類し、相談員に繋ぎます。相談員は世界約30カ国に約700人おり、ボランティア相談員と専門相談員との2層で対応しています。私たちはオンラインの相談窓口ですから、時差を使い、各地から幅広い層に対応できるのが強みです。

 

--どのような相談があるのでしょうか。また、チャットの利点はどこにあるのでしょうか。
 

 問題を複数抱えた方からの「死にたい」というような深刻な相談がほとんどです。
 

 コロナ禍においては、DVや虐待の相談もかなり増えました。これは、電話中心の相談環境の中で、声を出すことができず命の危険につながっている方がたくさんいて、チャット相談のように相談していることを人に知られない相談手法のニーズが高まったということだと考えています。
 

 また、吃音がある方や聴覚障害の方からの相談は、チャットであれば自分のペースで相談できるので、こういったニーズにも合致したと感じています。チャットボットとの会話は一見無機質に感じる方もいるかもしれませんが、実は文字化されたものを読み返すことで自分の気持ちが整理できるという方も多数います。相談は対面に限らず、手法の選択肢があっていいと感じています。

 

--ボランティア相談員の強みや課題は何でしょうか。


 私たちの元へ相談に来る方は、支援に繋がりかけていた方や、支援機関と接点を持ったことのある方がほとんどです。そこでうまくいかなかったから、私たちの元へ来ている。そうなると、相談機関がどんなに寄り添おうと傾聴しても難しい部分があります。そんな中、身近な相手との雑談だからこそ声に出してくれることも多々あります。ボランティア相談員の強みはここで生かされているのです。
 

 一方、目の前に問題を抱えている人がいると、同情し、気持ちが引き込まれてしまう側面もあります。プロはそれを前提に対応できますが、ボランティアにはその経験はありません。つい自分を後回しにし、目の前の人に何でもしてあげたいと思ってしまう。それはとても尊い感情ですが、私は、自分を犠牲にした瞬間に支援はできなくなると考えています。
 

 本来、支援とは、よい循環を作ることです。支援することによって、その人の問題が解決するのではなく、その人が自立して、誰かを頼りながら生きていく。その過程で、他の誰かの相談を受ける。そしてまたその人が・・・と、頼り頼られるという循環が生まれます。しかし、誰かが自分を犠牲にした瞬間にそのサイクルは断ち切られてしまいます。
 

 だから、相談に応じるボランティアには、自分を一番優先してほしいのです。目の前にいる相談者は全くの赤の他人です。そのことを忘れずに、精神的な負荷が大きくならないよう、相談者との間に薄い線を引かなくてはいけません。この、全くの赤の他人に本気で接することを、私たちは「本気の他人事」と呼んでいます。

 

--最後に今後の展望を教えてください。


 私たちの支援は「マイナスからゼロへ」という考え方をしています。マイナスとは、死にたい、苦しい、しんどい等の状態のことです。そしてこの状態をゼロに持っていく、つまり、とりあえず今日は死ぬのをやめておこう、明日も生きてみよう、といった状態にすることを目指しています。マイナスの状態から、急に問題解決をする、つまりプラスに持っていくことはできません。そして、その過程のすべてを、専門職で担うこともできません。役割分担が必要です。マイナスからゼロは、ボランティアの力を最大限に生かして行う、そしてゼロからプラスへの支援は地域が担う仕組みが必要と考えています。
 

 具体的には、地域の大学生くらいの世代がサポーターとなり、私たちが受けた相談を引き継ぐ仕組みを考えています。オンラインを入り口として、チャット相談を継続しながら、地域資源に繋いでいく役割を果たす人を作りたい。そしてそれを、若者が地域で担うことが重要です。継続支援ができる存在は、地域にいてこそ力を発揮するのです。

 

※1 チャットとは
 インターネットを利用したリアルタイムで行われる対話のこと。主にテキストを双方向でやり取りする。

※2 チャットボットとは
 「チャット(会話)」と「ボット(ロボット)」を組み合わせた言葉で、自動会話プログラムのこと。パターンマッチ型、人工知能型などさまざまな種類がある。

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