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県社協のご紹介

巻頭インタビュー(2025年5月)

頼る人が誰もいない若者への支援活動 ~つまずいてもリスタートできる社会に~

幼少期に虐待を受けて保護され、児童養護施設で育ったブローハン聡さん。社会人になってからは、自分と同じような境遇のなかで悩み、苦しんでいる若者を支援する活動に取り組んできました。今回は若者が現在抱えている課題や、その解決のために社会に求められることについて伺いました。

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社会福祉法人一般社団法人コンパスナビ 代表理事
ブローハン 聡(さとし)さん


1992年生まれ。日本、フィリピン、スペインの混血。無戸籍、無国籍で出生。幼少期に義父から虐待を受けて保護され、11~19歳まで児童養護施設で育つ。幼少期の経験から、社会問題に強い意識を持つようになり、現在は講演活動やYouTube配信番組を通じて啓発活動や社会問題に光を当てる活動に取り組む。施設や里親の元から社会に巣立った若者の自立を支援する一般社団法人コンパスナビの広報マネージャーを経て、2024年10月から現職。こども家庭庁審議会臨時委員として政策提言や社会的支援が必要なこどもや若者への支援活動に尽力。著書に『虐待の子だった僕-実父義父と母の消えない記憶』(さくら舎)など


 

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--代表理事を務めるコンパスナビの活動内容について教えてください。

 私たちの活動は、母体となる会社(IAC)が2015年、埼玉県内の児童養護施設を巣立つ若者29人に、運転免許取得の費用を助成したCSR活動(※1)からスタートし、その後CSV活動(※2)に発展しました。
現在、埼玉県から「児童養護施設退所者等アフターケア事業」を受託して、住居支援、就労支援、生活支援、居場所事業などを提供しています。住居支援では住宅の確保が難しいケースの物件探しサポート、就労支援では就労前の職業適性検査や職業体験、就労後の継続支援を行っています。また、生活支援では借金や貧困などさまざまな困りごとへの対応、居場所事業では一軒家を借りて、同じ境遇の若者がつながり、安心して過ごせる場所を運営しています。
さらには、児童養護施設を巣立つ前に入所中の児童と関係づくりをすることが大事だと考え、楽しいイベントを開催したり、金銭管理や料理、洗濯といった生活スキルを学び、自立について考える機会を設けたりするなどの自立支援プログラムを実施しています。

 

 

--コンパスナビの活動にかかわるようになったきっかけと、活動を続けている推進力について伺えますか。

 2018年頃、児童養護施設出身者の皆さんが声を発信するムーヴメントが起こっていました。「こんなにつらい思いをした」というネガティブな声が聞こえるかと思ったら、「もっと次世代の希望につながることをしたい」というポジティブな声を聞き、活動に参加するようになりました。
その頃、同じ境遇を経験した先輩たちが当事者の若者とつながって支援しようと、「WACCA(ワッカ)プロジェクト」を立ち上げました。そこで「WACCA」の活動に参加し、さまざまな企画を立案するようになったことがコンパスナビとかかわるきっかけです。
今まで活動を続けてきた推進力は「楽しさ」です。声を発信すると、共感する声が上がって、変わろうとするエネルギーが生まれ、いろいろな動きがでてくることがあります。すぐ変化が生まれるわけではありませんが、数年たつと実際に変化することもある。それがすごく楽しいですね。
一方で、私は帰る家も故郷もなくて、外国にルーツもあるので、海外に行きたいという気持ちも持っています。しかし、母体会社の社長から「拠点がないからこそ、日本で根っこをつくれ」と言われた言葉が心に響いて、まず日本でちゃんと根を張って、そこから広げていこうと決心したという側面もあります。

 

 

 

--多くの社会的養護(※3)出身の若者が直面する課題について、具体的な支援事例を交えてお話しいただけますか。

 まず、心に深く傷を負った状態で社会人になる若者が増加している現実を、皆さんに知ってほしいと思います。
また、就職支援の難しさも実感しています。先日、会社を解雇されたと同時に住まいも失ったために、コインランドリーで3日間寝泊まりしたという若者を、生活困窮者自立支援事業の窓口につなげるために同行支援を行いました。
このケースのようにマイナスの状態に落ちてしまった若者に、住まいなどを探してゼロにリセットして、スタートできる環境を整えるまでに長い時間がかかります。そこからまた就職につなげて自立するまでの長い距離を我々は伴走支援をしていきます。
もうひとつ大きな課題は、虐待を理由に一度は社会的養護につながったものの、十分な改善がないまま家庭に戻され、再び親や養育者からの虐待などの理由から家庭に居場所がないために家出をしてしまうことです。そのような場合の一定数は、犯罪に巻き込まれたり、性的搾取に合いやすい環境に身を置いたりしてしまうことも少なくありません。家に居場所がないこどもたちを、地域でどのように見守り、育てていくかは私たちの大きな課題です。

 

 

--若者たちが自信をもって、安心して社会の中で生きていくために必要なことは何でしょうか。

 何度つまずいてもリスタートできる社会環境が必要だと考えていて、そのためには小さな失敗が容認されることが求められます。コンパスナビでも“リスタート”という言葉を大切にしながら支援にあたっています。
私たちは若者に社会参加の一歩を安心して踏み出してもらうことを目的に、養蜂場をつくって、採蜜、商品づくり、販売までの6次産業を展開しています。例えば人と話すことが好きな若者は販売を担当するなど、それぞれの得意なこと、好きなことを活かしながら仕事をしてもらっています。
社会的養護出身の若者の多くはなかなか自信を持てないのですが、このプログラムに参加することで「自分が役に立っている」「社会のなかで必要とされている」という手ごたえを感じ、自信を得ることにつながっています。

 

 

--最後に本誌の読者に向けてメッセージをいただけますか。

 虐待や貧困といった大きな社会問題に目を向ける前に、まずご自分の半径8mくらいの範囲にも目を向けてください。
目の前に困っている人がいたら、やさしくする。そこからその先にある大きなテーマにつながっていくものと考えています。そして目の前の人にやさしくするためには、まず自分にやさしくすること。自分にゆとりがないと、目の前の人を助けることができないからです。
また、若者たちの“リスタート”を応援する方法は、寄付だけではありません。私たちが手掛けている蜂蜜の商品を「おいしいね」と食べていただくだけでも、立派な応援になります。ちょっとした関心が、誰かの明日を変える力になります。できることから、ゆるやかにつながってもらえたらうれしいです。

 

※1 CSR活動 企業が環境活動や寄付活動等社会貢献を行うこと。
※2 CSV活動 企業が社会的課題に取り組むことで、経済的価値と社会的価値を同時に創造すること。
※3 社会的養護 児童養護施設や里親家族等による養育。

 

 

 

 

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