県社協のご紹介
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精神保健福祉士として長年、精神科病院に長期入院する患者の社会復帰や地域に暮らす精神障害者の支援に尽力している田村綾子さん。精神保健福祉士の専門職団体・日本精神保健福祉士協会の会長として、精神障害者の権利擁護やメンタルヘルスの課題に真摯に向き合い、共生社会の実現を目指しています。今回は、メンタルヘルスの課題に直面している現代社会において、精神保健福祉士が目指す未来について伺いました。
公益社団法人日本精神保健福祉士協会会長
学校法人聖学院理事長・聖学院大学心理福祉学部教授
田村(たむら) 綾子(あやこ)さん
神奈川県横浜市出身。大学3年次に国立久里浜病院で実習し精神保健福祉士を志す。医療法人丹沢病院(医療相談室)に精神保健福祉士として16年間勤務。日本精神保健福祉士協会理事・研修センター長等を歴任し、2020年より会長。2011年聖学院大学着任(心理福祉学部教授、学部長・研究科長、副学長などを歴任)。厚生労働省「精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会」構成員、「自殺総合対策の推進に関する有識者会議」委員、文部科学省「いじめ防止対策協議会」委員などを務める。
主著に、「精神保健福祉士の実践知に学ぶソーシャルワーク・シリーズ」1〜4巻(編著)「図解でわかる対人援助職のための精神疾患とケア」(共著)いずれも中央法規出版 ほか
--精神保健福祉に関わるきっかけを教えてください。
大学の実習で精神科病院に行きました。作業療法やレクリエーション療法が活発な病院で、カラオケやソフトボールをしたり、革細工を作ったり、患者さんとの交流がすごく楽しかったのです。患者さんはとても素朴で、本音で話せる空気は私にとって心地良いものでした。
そんな中、「症状は改善しているのに、なぜ患者さんは長く入院しているのだろう」という疑問がわき、カルテを見ると家族との関係が絶たれている方もいて、この方たちの退院後の生活を支えたい、社会復帰のお手伝いがしたいと、就職先は精神科病院を選びました。
就職したのは実習先とは別の病院でしたが、ソーシャルワークに理解のある病院だったため、地域へ出て、社協や民生委員・児童委員さんと一緒に精神障害者の地域生活の支援にも力を入れました。
病院を退職した後は、日本精神保健福祉士協会で特命理事として生涯研修制度を構築し、2011年からは聖学院大学で学生の教育をしています。
--精神保健福祉士は主にどのようなところで働いているのでしょうか。
精神保健福祉士の4分の1くらいは精神科のある医療機関で働いています。その他にも、障害福祉サービス事業所、自治体、教育委員会、司法分野など活躍する場所は本当に幅広いです。
企業においては、社員のメンタルヘルス支援や障害者雇用の合理的配慮の調整役としても活躍しています。最近は企業を顧客として開業する精神保健福祉士も出てきています。
--埼精神保健福祉士を取り巻く環境や社会から期待される役割について教えてください。
資格ができてまもなく27年になりますが、社会の変化とともにメンタル不調者が増え、自殺対策やいじめ、不登校、引きこもりへの対応など、精神保健福祉士に期待される役割は拡大しています。
特に、高齢者の分野では、認知症や高齢期のうつ病といった精神科領域の疾患が増えています。また、若い頃から精神疾患のある高齢者への対応の難しさや、家族からの過度な拒否や依存といった関わり方が難しいケースでは、精神医学や心理学の知識をもつことから、精神保健福祉士が必要とされています。
--日本精神保健福祉士協会はどのようなビジョンを掲げて活動しているでしょうか。
協会の活動は大きく三つの柱があります。
一つ目は人材育成です。精神保健福祉士は資格を取っただけでは現場の即戦力になれるとは限りません。精神保健福祉士はさまざまな場所で働き、業務の幅も広いため、職場で担えない研修を協会が補っていく必要があるのです。
二つ目は政策提言です。精神障害者が地域で安心して暮らせる社会をつくるためには、法律や制度の壁を取り除く必要があります。協会は全国に1万2千人の会員がいますが、現場の声を集めて国に働きかけ、社会を変えていく「ソーシャルアクション」を行っています。
協会は61年前、精神障害者は福祉の対象外で国家資格もない時代に、精神科病院で働くソーシャルワーカーたちが「患者の人権を守る」「社会復帰を支援する」ために集まったことから始まりました。制度や社会を変えることは、私たちの活動の原点なのです。
精神科病院は、隔離や拘束、強制的に入院させることができる病院なので、その中で人権を守っていくことは社会全体の問題であり、政策提言として特に重視したいところです。
三つ目は組織強化です。全国の精神保健福祉士が参加し、研修を受け、政策提言を行っていく、その仕組みを支える組織づくりを行っています。
--協会として、今後どのような活動を目指しているのでしょうか。
まずは「知ってもらうこと」が大事だと思っています。精神保健福祉士はまだ認知度が低いので、困ったときに「相談できる存在」としてもっと広く知られるよう普及啓発を進めたいと考えています。
また、「コミュニティづくり」にも力を入れていきます。今は、人々がメンタル不調を感じやすくなっています。自分のメンタルの状態に気づきやすくなったという良い面もありますが、こども・若者の自殺者は減っていません。理由は、自分の居場所や現状に不安が大きいからではないかと思います。
誰もが早期にメンタルの不調を相談でき、「ここにいていい」「自分のことを気にかけてくれる人がいる」と感じることができれば、精神疾患や自殺を予防することができると思います。そんな社会を目指したいのです。
--最後に読者へのメッセージをお願いします。
協会が目指しているのは、誰も排除しない社会です。かつてのように、精神疾患のある方が地域から隔離された時代を繰り返してはいけないと考えています。高齢になれば、誰もが認知症になる可能性があるように、メンタルの不調は誰にでも起こり得ます。一人一人が「明日は我が身」と捉え、特別視しすぎず、同じ街で暮らす人同士として心を寄せていただきたいです。
困っている人は、なかなか「助けて」と言えません。はじめは心のドアを開いてくれないかもしれませんが、あきらめずに声を掛け続けてください。話を聞いてもらうだけで心が整理され、救われることがあります。
自分一人で抱えてしまって、どうしたらよいか分からなくなったら、精神保健福祉士を頼ってください。「支えあい、誰もが“ここにいていい”と感じられる社会」を一緒に作っていきましょう。